episode 2

靖国神社に植えられたさくらの由来

靖国神社と木戸孝允

靖国神社は、1869(明治2)年6月29日に東京招魂社として創建されました。
私が20年前に出会った本『ねじ曲げられた桜』(2003年 岩波書店)の著者(大貫恵美子氏によれば、靖国神社のさくらは1870(明治3)年、明治維新三傑の一人、木戸孝允によって植栽されていると書かれています。
では、なぜ木戸孝允は染井吉野を神社の境内に植栽したのでしょうか。

大村益次郎の部下で、中島佐衡(すけひら)の妻中島茂子氏が、『大村益次郎先生伝記刊行会』に語ったことが記されているようです。
そこには、木戸孝允は靖国神社に暮らしていたことや、別荘のある東京近郊の染井村からさくらの木を移植し、それを毎年繰り返し、中島茂子氏もそれを手伝ったこと。
そして、靖国神社内にさくらが年々増え「さくらの園」になったというのです。

桜の品種ソメイヨシノは、江戸末期に奈良県の吉野桜に負けない新種のサクラとして、染井村の植木屋によって誕生したといわれています。
明治という新しい時代に、新種のソメイヨシノは注目されたのでしょう。

振り返って江戸時代のさくらは、ウヤマザクラ(山桜)が主流でした。
ヤマザクラとは桜の開花時期も個体ごとに異なり、花と葉が同時に咲き、花も葉も個体ごとにことなります。
戦後になって、全国的に一斉に咲くソメイヨシノという単一品種ばかり植栽された結果、私たちは「ソメイヨシノがさくら」だと勘違いしがちです。

日本には桜が300種類以上ありますが、戦時中に多くの名木桜が燃料として伐採されたことや、戦後植栽するときに、苗木の中でも価格が安いソメイヨシノばかりが植えられ結果の風景を見ているのです。
皇居の吹上御所には、平安時代からの大事に守られた品種をはじめ、江戸時代に誕生した桜などが植えられていますので、千代田区で桜を見る時にはそれら皇居の桜の違いを愉しむのも一興です。

靖国神社の境内に咲く「さくらの献木」

2025年の今年、靖国神社の境内のさくらはきれいな花を咲かせています。
しかし、終戦80年を迎えますが、これらのさくら木には、戦争の傷跡が残るさくら木も少なくはありません。

この写真下のような「部隊名」が貼られた献木の桜が多くあります。
既に、このさくらを献げた部隊の仲間たちはもうこの桜の元に集まることはないでしょう。
亡き人を忍ばせるさくらが今年も花を咲かせています。

靖国神社の献木
2025年4月3日と4日、境内には紅白の幕が張られ「夜桜能」と題したが奉納が行われた

写真のさくらの根本付近にある銘板
昭和49年献木さくら
甲第1821部隊
全国戦友大会記念植樹
と記載がある

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